こだわりの船宿
第1回 [千葉県] [館山港] 真澄丸 オニカサゴ   掲載:2004年4月27日

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千葉県の館山に鬼狂いで有名な船長がいた。
鬼釣師であれば真澄丸船長 橋忠船長の名前を聞いたことがない人はいないと言うほど有名な船長だ。
鬼とはオニカサゴ。標準和名はイズカサゴである。
真澄丸で狙うオニカサゴは2kg以上の大型。
オニカサゴは成長が遅い魚で2kgになるには約20年かかると言われている。最近では築地でも販売されていると聞くが、これだけの大きさとなると話しは別だ。
オニカサゴは、それだけ貴重で価値のあるお魚だ。
鬼狂いの橋船長だが、午後船のオニカサゴは絶対にやらないという。オニカサゴの資源保護もあるのだが、その理由にはこんな秘密が隠されていた。

協力 千葉県館山港 真澄丸
盛川徹
「よく船長が釣った魚をお土産に渡す船宿があると聞きますが、うちでは絶対にお土産は渡しません」橋忠船長は断言した。船長が釣ったオニカサゴは絶対にお土産では渡さないそうだ。なぜの問いに対して船長は「意地悪であげないんじゃないです。鬼釣りというのは難しさを楽しめる心が大切です。釣れないと悔しい。その悔しさで技術が向上するし、また行こうという意欲がわいてくる。例え自分が釣った魚じゃなくてもお土産があればそれで悔しさは半減されてしまい。また来ようという意欲が無くなってしまう」とのことだった。船長が言うには、以前はお土産を渡していたそうだが、お土産を持ち帰ったお客さんのほとんどがリピーターにはならなかったそうである。
真澄丸のお客さんは独りで来る人が大変多い。もちろん常連も多いのだが、初めてオニカサゴをやりたいというお客さんもかなり多い。「ホームページの影響も多々ありますが、それ以上に口コミのお客さんが多いと思います」と船長は言う。
やはり船長のオニカサゴに対する情熱がお客さんを引き付ける魅力なのであろう。 「オニカサゴ釣りは、釣り人と船長の操船とがうまく噛みあった時にいい結果を生むもので、常に操船に神経を集中する事を心掛けています。そのため、初心者には、出船前に必ずしっかりと釣り方のレクチャーを聴いてもらうようにしています」 と、初心者にも釣り方のポイントを的確に教えてくれる。現に船長のレクチャーを聴いて何人ものビギナーが大鬼を釣り上げているのだ。 そのため一度、真澄丸でオニカサゴをやると常連になるお客さんが多いと言う。

これほどまでにオニカサゴに対して情熱を燃やしている船長がなぜか午後船のオニカサゴは絶対にやらないと言う。「午前中だけでもう一杯一杯なんです。午後まではとても体力と気力が持ちません。だから午後はアマダイやカイワリのようにある意味、気楽な釣り物であれば出船しますが、オニカサゴだけは無理です」とのことだった。

それではなぜ、午前中だけで一杯一杯なのか?それは橋船長のオニカサゴ釣りへのこだわりに隠されていた。

真澄丸の鬼釣り釣法

真澄丸流の釣り方のコツは、まずオリジナル仕掛けにポイントがあります。うちのは2.6mとかなり長いです。
その理由は小さいオニカサゴは短くても食ってきますが、うちで狙っている大物は、警戒心も強く少しでも短いと食ってこないからです。また、なるべく少ない糸出しで底を取る事も大切です。特に駆け上がっている根の場所では、糸を出して引きずっていると、どうしても誘いがワンテンポ遅れてしまいます。なるべく垂直に糸を出すようにしたほうが有利です。それに、仕掛けを浮かせたら食ってきません、引きずってもダメ。潮も動いているわけですから、イメージとしては、天ビンと仕掛けが水平になっているような感じ、これは重要です。それで、餌がヒラヒラヒラ、ヒラヒラヒラっていうように動いて誘っているのをイメージすることです。そうやって誘っていれば、そのうちにアタリが来ます。大きなアタリは小物か外道で、大型ほどわずかなアタリです。この小さなアタリを取ってから始まるのが、本当のオニカサゴ釣りです。

小さなアタリが来たら、すぐに糸を送り込んで、竿先を水平にして次のアタリを待ちます。2度目のアタリが来ても決してアワセては駄目です。その後の3度目のアタリでソフトに聞き上げます。そうすると強烈な引きで突っ込んでいきますから、そこでしっかりアワせて根から引き離すようにします。

ベテランでも、なぜ糸を送るのか、本当の意味が理解していない人が多いです。ヤリトリの間にも船は流されます。大物ほど注意深く捕食に時間をかけるので、離れる餌をその場に留め置く事が重要になります。大鬼は離れていく餌を追いかけません。だから、その場に仕掛けを留めておくために糸を送ります。誰かが小さなアタリをとり糸を送れば、船をその人に合わせて操船します。船長とのコンビネーションも大切です。

また、リーリングも非常に大切です。途中で「サメだ」「フグだ」と言ってオニカサゴを釣るのはご法度です。何で途中で外道だと思ったらダメかと言うと、そう思った瞬間にリーリングが雑になってしまうからです。掛かったら何でもオニカサゴだと思うことが大事です。途中バラシが非常に多くて、タモに収まるまでは決して安心してはいけません。特に、海面で糸が止まると3割はバレます。それは、激しい抵抗で針穴が大きく広がってしまうからです。


オニカサゴは大変美味しいお魚だ。特に冬場の”水炊き”や”しゃぶしゃぶ”は最高に旨い。だからこそ、釣りたいという鬼狂いは大変多い。しかしながら大型のオニカサゴはなかなかお目にかかれない。数が少ないこともあるが、やはり難しい釣りだからということでもある。そんな中、橋忠船長のこだわりは、大オニカサゴを釣るための極意に満ち溢れている。船長は釣り人全員の一挙手一投足を見逃さずにいつでも船をオニカサゴの動きに合わせられるようにスタンバイしているのだ。そのため神経をすり減らし、とても午後船までは気力が持たないのである。

真澄丸では、オニカサゴはもちろんのこと、午後船ではカイワリ・マダイ・マゴチ・カサゴなどの釣り物を用意している。
午後船はできるだけのんびり釣りができるように船長は配慮しているとのこと。午前船でオニカサゴに集中して、午後船はのんびり釣るのもまた楽しい。